失わせるものの大きさにおののく

こちらを読みました。

 

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「嫁の遺言」加藤元

 

7つのストーリーからなる短編集。

とても読みやすくあっという間に読んでしまった。

その中から、心に残ったもの、2つ。

 

一つは「いちばんめ」

同級生の結婚式で初恋の彼に再開する、というよくある場面。初めての恋でお互いつまらない意地をはってうまく付き合えず、お互い大好きだったのに別れてしまった。

今だからやっと勘違いや思い込みだったと気づくのだけど。

恋もキスもなにもかもが初めての人。だからこその大恋愛、もう2番目からはやってこない思い。1番目の人。

青春だなーと、誰にもある1番目。たまにそんなことを思い返すのも、大人の醍醐味かもしれない。

しみじみ思い出してしまった。遠くまで来たもんだと。

 

 

心に残ったストーリー、二つめは「窓の中の日曜日」

母親の1度の過ちが原因で離婚、娘の親権は父親に渡り、離れて暮らす母娘。

娘との週に1度のデートを楽しみに暮らす母。

何よりもその時間を楽しみにしていたけれど、娘の父親(前夫)から再婚したことを告げられ、もう二度と会わないでくれと言われてしまう。

母はそこで、娘が新しい母になじめず、父に内緒で実母に会いに来ていたことを知る。どんな思いで娘が自分に会いに来ていたのかを。

 

この話は、胸が痛かった。

私は正直、不倫に賛成も反対もしていないんです。状況ってもんがあるし、一概に何も言えない。そこから始まる人生もあるだろうし。

私自身は、夫へも今の生活にも1ミリの不満もなく、そもそも出会いもなく、不倫する理由もきっかけも何もないので、穏やかに生活を続けているわけです。

だからと言って、NO!不倫!と思っているわけではなく、人がしてても、ふーーーん、くらいしか思ってなかった。むしろ、まーしたくもなるよね、わかるわかる、くらい思ってた。

でも、この話を読んで、自分は絶対したくない、と思った。

 

そもそも、なんで子供を夫に渡さなきゃならんのか。

産んで育てたのは女。体ボロボロにして血分けて髪振り乱して育てるのは女。

この夫は全く育児に協力せず平気で遊び、なのにただ1度の嫁の浮気が許せず、それまでかわいがりもしていなかった娘をとりあげ、たった2年で再婚し、本当の母には会わせないという。。。オーノー。

それまでの、産んで育てた365日✖️年齢分、毎日毎日来る日も来る日も子供と一緒に過ごした日々を、たった一晩のうっかりミスで、全部もってかれてしまうなんて。

やるせなさすぎる。

たった一晩たりともミスを許されない職業、お母さん、なんですね。

こんなしょうもない父親でも親権を取れるんだもの、うちのいい夫・いい父親なんて間違いなく親権あっさりもってく。私が一晩ミスしたら、あっさり2人もってかれる。

絶対にミスしないように、心に誓いました。

 

そして、何より頭をがつんとやられたのは、娘が失った家族の形。

浮気して子供とられた母親のつらさにフォーカスしていたわけです。

でも、娘のつらさ。

実の父親と母親と暮らす、本来当たり前の家族の形を、娘はなくしてしまった。何も非のない娘が、当たり前に求める形は、もう手に入らない。

親がうまくいってない家庭は多い。離婚した、再婚した、実の親の顔を知らない、そんな環境で育つことは今では珍しいことじゃないし、だからって不幸だとか、そこから先の人生に暗い影を落とすとか、そんなことない。そこから学ぶことの大きさと強さを、私自身が知ってる。

ただ、子供が辛い思いをするのは事実だ。

その原因が、母親のうっかり一晩の過ちだなんて、つらすぎる。

そんな傷を負う原因を自分が作るなんて、私は絶対嫌だ。

どんだけ可愛がってると思ってるんだ、毎朝毎昼毎晩、子供のことが大好きだ。その2人を、自分が傷つけるなんて、絶対嫌だ。

離婚して親権を失って、子供と暮らせなくなる悲しさよりも、子供に背負わせる傷の大きさ。

自分が失うものの大きさより、自分が背負わせてしまうものの大きさに、おののく。

うっかりミス、気をつけよう。絶対しない。やっぱりNO!不倫!に寝返る。